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やなぎなぎ 音楽活動20周年記念アルバム『ENcore』セルフライナーノーツ
2025.06.25


1. 「ジャム」
イントロダクションとして、自分と聴いてくださる方が交差するような気持ちで、そのまま「仔猫と雨」に繋がるようにと思いながら作っていました。歌詞はありませんが、冒頭に少しだけコーラスが入っていて、イントロ部分から世界観を明示して、1枚の作品として見せられるようにしたいと考えました。

2. 「仔猫と雨」
元々自分が作っていたのは、見た情景を歌とピアノだけで表現したかなりシンプルなものだったのですが、当時編曲をしてくれた”まさやん”さんが、雨の音などさまざまな音を加えてくださり、「アレンジによってこんなに変わるんだ」と、思った記憶があります。今回自分でリアレンジするにあたり、当時の編曲へのリスペクトを込めています。サビや間奏に出てくるピアノのフレーズで、オクターブで飛ぶ「トテン」という音があるのですが、それは雨の落ちるポツンという感じをイメージしていた音で、そこだけ少しテンポを揺らして印象的になるようにしています。

3. 「虹彩」
これは当時の自分としては尖った曲です。どちらかというと静かな曲を書くことが多かったのですが、同人音楽を通して様々な曲に出会ううちにこんな表現もやってみたいと浮かぶようになって。今回のリメイクにあたっては、その尖りたかった自分を思い出して、あまり使わない音を入れてみようと思い、丸っこくない音を選びながらアレンジを組んでいきました。私的にはチャレンジの曲だったので、歌詞も重たい雰囲気の物語調の内容になっています。

4. 「ぼくのともだち」
この曲は初期のライブやファンクラブイベントなどでも時々歌ってきたので、このアルバムの中では比較的知られている曲だと思います。私が作った原曲はマリンバの音だけで展開するものでしたが、ENではまさやんさんがケルト音楽のようなアレンジをしてくださっていました。リアレンジにあたっては当時のシンプルな作りのようにマリンバの音が際立つようにしました。あとは、フルートとバイオリンの音をそれぞれが半月を表すようなイメージで、左右別の位置に振ったり、フレーズが絡んだり離れていったりするようにして、物語性を強めているアレンジにしました。この曲は次の「片割れ月」に続く流れにある曲なのですが、この頃から自分の見た風景を大人でも楽しめる童話のような表現に変えて曲を書いてみたいと思いを抱き、それが特に色濃くでている楽曲だと思います。

5. 「片割れ月」
原曲ではピアノだけのシンプルな曲でした。これは2018年の「M3」でリリースしたミニアルバム『小夜すがら』を出すときにリメイクをしたときのもので、佐々木貴之さんにギターを弾いていただきました。物語の終わりを語るように歌いたいなと思ったので、ギターの佐々木さんと息を合わせて一発録りでレコーディングしました。そのため語り部のような空気感がよく出ていると思います。「ぼくのともだち」で探し続けた半身のような存在ですら、時と共に記憶が薄れてしまうかもしれないけれど、もしもう一度生まれ落ちたなら、それはまたきっと君と出会うためだから、という願いの歌です。

6. 「花のいのち」
この曲は私が作った楽曲のなかで最も古いものです。最初は「曲作りってどうやるの?」から始まり、新居昭乃さんのように曲を作ってみたいと思い浮かべながら作りました。リスナーとして、「昭乃さんはこういう景色を見ているんだろうな」と聴いて想像することが多かったので、私も自分の見た情景が浮かぶ曲を書いてみたいと思い、鍵盤を精一杯弾いて作った曲です。昭乃さんの曲はコーラスもとても好きなので、私もそういうパートを楽曲に入れてみたい!と自分なりに模索しながら作り、とても愛着のある曲です。

7. 「あなたの住み処」
当時、創作活動の一環として文章も書いていて、そこで自分が書いたお話のイメージで作った曲です。その話はもともと世に出すつもりではなかったので、恥ずかしいんですけど(笑)。簡単なあらすじを言うと、別世界の人との出会いがあって、最終的には一緒の世界にはいられずお別れをしなくてはいけなというような物語。原曲はバラードのつもりで書いていて、ピアノの弾き語りのような雰囲気でしたが、電子音も合いそうなイメージが湧いてきたので、エレピの音が淡々と時を刻んでいくような、一定のリズムで最後まで進んでいくイメージで作ってみました。歌は今回のアレンジに合わせて囁くように、コーラスもラインは当時と一緒ですが、浮遊感が伝わるように意識しました。作った当初の主観のイメージから客観へと、一番変化した曲かなと思います。

8. 「真秋の海」
真夏や真冬はあるけれど、「真秋」って言わないなと思って。深い秋の海、知らない国から流れてきたボトルメールがやってきて、それを拾い上げて夕日を見つめている情景を率直に曲にしてみたかったんです。その瓶が旅立つまでにはどういう物語があったんだろう、という思いを馳せるような曲になっています。この曲は元々海辺でギターで弾き語っているようなイメージで作っていたので、あまり当時とサウンドの雰囲気は大きく変わっていませんが、少し広がりを感じられるようなアレンジを加えました。

9. 「くじらぐも」
これも見たままの情景というか、空を見た時にクジラみたいな形の雲があり、そこに何か物語があるような気がしたり、いつか瞬きをして動き出すんじゃないか、とかそういうことを書き留めたかなりシンプルな曲です。当時はこういった曲の尺が短く一瞬で過ぎ去るような曲が多かったんです。景色を見た時に「こういう曲にして覚えておきたいな」とフワーッと浮かんで来たものを書き留める感覚だったからですかね。曲の長短について昔からこだわりはなくて。今もカップリングやイントロダクションの曲には短い曲があり、伝えたいものをそれに必要な長さで伝えきるということをずっと大事にしてきたんだなと思います。

10. 「空の瞬き」
「あなたの住み処」とは逆に、今回のアレンジによってドラマチックに変化した曲です。歌詞に「皮膚」や「心臓」といった直接的でパンチのある言葉を入れていたので、よりドラマチックなアレンジにしてみたいと思い、そこかしこで音を厚めにしています。歌詞を音で聴いてちょっとドキッとする部分などは、より強く印象付けられるような歌い方を意識して歌いました。

11. 「君が眠る空」
この曲は私の幼い頃に体験したことをモチーフにしています。小さい時だったので鮮明な記憶ではないのですが、心がざわついた感覚が残っていて、消化できずに残っていたものを曲にして吐き出してしまおうと思って作りました。作った当時と同じようにピアノと歌のみのシンプルな音作りになっています。その方がより歌詞がダイレクトに伝わるのかなと。

12. 「tulpa」
「花のいのち」のすぐ後に作った曲です。『EN』の楽曲以降の部分は、初めて作った曲から始まり、『EN』と同時期の曲が並び、また最古に近い曲に戻って終わるというイメージです。イマジナリーフレンドという、心の中の話し相手がもし自分にいたら、それはどういう存在で、大人になってその人を段々忘れていってしまったらどういう気持ちになるだろうか、と想像しながら作った曲です。この曲の鍵盤のフレーズがとても気に入っていたので、こちらもアレンジは当時とあまり変えずに、綺麗に生まれ変わるような気持ちで制作しました。



(INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉)



アルバムの詳細
https://yanaginagi.net/information/yanaginagi_album_encore/